消費者や見込顧客に自社の商品やサービスへの興味関心を抱いてもらい、売上拡大につなげるためには、複数のメディアを組み合わせて展開するクロスメディアの施策が効果的です。このコラムでは、「クロスメディア」の用語を解説した後に、どのように複数のメディアを組み合わせるとよいかや、クロスメディア施策の実施における注意点などについても見ていきます。
クロスメディア(Crossmedia)とは、1つの情報・コンテンツを複数のチャネル・メディアで展開することにより、事前に設定したゴール(購買・申込など)までの流れをつくるマーケティング・プロモーション手法のことです。
具体的には、下記のメディアを組み合わせます。
情報供給過多になっている現代において、消費者は自分が興味のある物事の情報だけを得ようとし、それ以外を遮断する傾向があります。そこで、プロモーションを行う側は、複数のメディアを重層的に活用することで、見込顧客が興味関心を抱くきっかけを増やす必要があります。
クロスメディア以外にも、「メディア」が付くマーケティング用語が複数あって混乱しますね。そこで、似た用語を簡単に整理しましょう。
映像、画像、音楽、テキストを組み合わせたコンテンツのことです。パソコンの普及により、より簡単にリッチなコンテンツを提供・体験できるようになりました。
1つのコンテンツを複数のチャネル・メディアで展開することにより、相乗効果を狙う手法です。例えば映画を製作・公開する場合、広告掲出だけでなく、小説や写真集、特設WEBサイト、ファンミーティングなどを同時または連続的に提供することにより、顧客接点(コンタクトポイント)を多重化し、認知向上、話題の持続を目指します。
メディアミックスは高頻度の露出による「認知の向上」に主眼が置かれるのに対し、クロスメディアでは「(購買・申込などの)ゴールへの誘導」を意識している点が異なります。また、クロスメディアではキービジュアル・コピーは1つに制限されず、チャネルとターゲットの特性に合わせて訴求点を変えることがあります。
1つのキーワードやキャラクターに基づいた複数のストーリーを複数のメディアで展開するコンテンツ作成手法です。例えば「スパイダーマン」は、映画・テレビ番組・コミックなどの製作時期や地域によって登場人物やストーリー展開が異なり、それぞれにファン層を形成することに成功しています。
自社の企業サイトや、WEBマガジン、ブログ、SNSアカウント、スマートフォンアプリケーション(以下「スマホアプリ」)など、自社名義で運営するメディアのことです。対語として、広告料を払って出稿する他社が運営する媒体を「ペイドメディア(Paid Media)」と呼びます。マスメディア、WEBバナー広告、検索連動型広告などがこれに該当します。 また、自社とは無関係の人々が自社を話題とする投稿・レビュー・口コミを提供する媒体を「アーンドメディア(Earned Media)」といいます。インターネット掲示板、レビューサイト、自社名義以外のSNSアカウントやブログのことです。
1つのコンテンツソースを複数のチャネルに展開することです。例えばテレビ番組を作成したとき、テレビだけでなくブルーレイ・DVD、動画共有サイト、SNS、メッセージングサービスなど複数のチャネルに配信するのが「ワンソースマルチユース」です。異なる顧客接点においても、消費者・見込み顧客に同じ情報・体験を提供できる点がメリットとなります。
複数設定したチャネルを密接に連携させることで、あらゆる場所で消費者と接点を持とうとするマーケティング戦略です。例えば、店頭、WEB、電話などゴールのためのチャネルを複数設定した場合、これまではチャネル同士で顧客を奪い合う構図が発生していましたし、顧客側にとってもそれぞれのチャネルは独立して存在していました。しかし、オムニチャネルの場合は、消費者を中心に考え、複数のチャネルを相互に連携させます。そのため、どのチャネルを使用しても、統一された体験をもたらすことが可能になります。例えば消費者は店頭で商品の実物を見ながらスマホアプリ経由で購入することもできますし、パソコンで比較検討後に電話で訪問依頼の申し込みをすることも可能になります。
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クロスメディアを活用するときは、事前に設定したゴールを達成するために、各チャネルをどう組み合わせるか考えて、コミュニケーションを設計する必要があります。ここで、クロスメディアのパターンをいくつか見てみましょう。
クロスメディアのごく一般的なパターンです。マスメディアやOOHでは「続きはWEBで」「○○(キーワード)で検索」などの文言で、店頭やイベントではポスターやチラシに掲出したQRコードなどで、それぞれWEBへ誘導します。多くの場合、WEBではキャンペーン向けの特設ページを設け、商品・サービスの詳細を紹介し、ゴールに導きます。
店頭からイベントに誘導し、イベント体験後に「参加者限定で購入可能」「アンケートに回答するとプレゼント」などの名目でWEBへ誘導します。店頭からイベントへの誘導はWEBに限らず、店頭での無料招待券・入場割引券配布や郵便による申し込みも含まれます。
WEBから出発して店頭でゴールに導く、いわゆるO2O(Online to Offline)のパターンです。WEBでクーポンを配布し、店頭で交換します。効果測定には、施策を実施する側が、顧客にデジタルクーポンを提供したり、流通小売店にPOSデータの提供を依頼したりする必要があります。
上記O2Oの前にマスメディア・OOH・イベントを顧客接点とするパターンです。特にテレビが起点となる場合は、O2O2O(Onair to Online to Offline)と呼ばれます。マスメディア・OOH・イベントで店頭のポスターやチラシを告知し、同じく店頭に掲出したQRコードなどでWEBへ誘導してクーポンを配布、店頭で消費します。
3を延長したパターンです。WEBで告知した商品を店頭で購入(ゴール1)後、商品に貼付されたシールやキャンペーンコード、レシートを集めてWEB上や郵便で応募させる(ゴール2)流れになります。
WEBへの最初の接触時点では、見込顧客は個人情報をあまり詳しく記入したがらないことがあります。しかし、一度商品を購入したあと、WEBで魅力的なキャンペーンが用意されていれば、応募のためごく自然に詳細な個人情報を入力してもらえるかもしれません。WEBというメディアを、段階に合わせて使い分けるパターンです。
携帯電話・スマートフォンのカメラ機能やFacebook、Twitter、InstagramなどのSNS、LINEやWhatsAppなどのメッセージングサービスの登場により、消費者は気軽に情報を共有・拡散できるようになりました。共有した情報が拡散されるスピードはマスメディアよりも圧倒的に早く、企業側もそれに追いつき、時には先回りして施策を打つなどの対応が必要です。
クロスメディアの重要性が増している背景には、このような消費者の購買行動の変化があります。そこで、消費者の購買行動を段階的に考えてみましょう。
A:Attention(注意)
I:Interest(興味)
D:Desire(欲求)
M:Memory(記憶)
A:Action(行動)
約100年前にアメリカで提唱された購買行動モデルです。インターネットがない時代はマスメディアによる認知向上がゴールでしたので、有名人のキャラクター起用やあっと驚くインパクトのある広告で商品・サービス・企業を認知させる必要がありました。そのため、顧客接点上で商品・サービス・企業を想起する・思い出すための「Memory(記憶)」が入っていることが特徴的です。
A:Attention(注意)
I:Interest(興味)
S:Search(検索)
A:Action(行動)
S:Share(共有)
AIDMAモデルをもとに、電通が2004年に提唱した購買行動モデルです。インターネットが普及し、個人が掲示板、ブログ、SNSなどを通して「Action(行動)」した結果を「Share(共有)」できるようになりました。「Action(行動)」の前に「Search(検索)」という、消費者・見込み顧客がメディアから提供される情報をただ受け取るだけでなく自発的・能動的に収集する活動が含まれたことも特徴です。クロスメディアとよくなじみます。
その後、「Search(検索)」の後に「Comparison(比較)」と「Examination(検討)」を加えた「AISCEASモデル」、拡散・拡散欲求を別の行動軸としてモデル化しAISASと合体させた「Dual AISASモデル」などの派生モデルも登場しました。
S:Sympathize(共感)
I:Identify(認識)
P:Participate(参加)
S:Share & Spread(共有と拡散)
電通が2010年に提唱した購買行動モデルです。SNSなどでほかの消費者・見込顧客が共有・拡散した情報に対する行動を詳細化しています。企業が提供する一方的な「Attention(注意)」よりも友人・知人など「自分の近くにいる人」の体験・思考や企業のCSR活動など社会貢献に対する「Sympathize(共感)」からスタートする、という前提になっています。「Identify(認識)」はAISASモデルにおける「Search(検索)」と似たような行動です。
「Participate(参加)」は設定したゴールへの到達だけではなくFacebookの「いいね!」ボタンやTwitterのリツイートなども含み、消費者・見込顧客の関与度に応じて4段階の層に分けられます。
D:Discovery(発見)
E:Engage(関係)
C:Check(確認)
A:Action(行動)
X:eXperience(体験)
電通が2016年に提唱した購買行動モデルです。消費者・見込顧客が検索や口コミ、レビューなど能動的に有益な情報を取得し、商品・サービスと関わりを持とうとする一連の動きをまとめています。「Check(確認)」はAISASモデルにおける「Search(検索)」、SIPSモデルにおける「Identify(認識)」と似たような行動です。
特筆すべきは最後の「eXperience(体験)」です。企業は、消費者が「Action(行動)」でゴールに到達した後も消費者が望む・消費者にマッチすると思われる情報を間断なく提供することを念頭に置いています。現在商品・サービスに対して消費者・見込顧客と企業がより深いエンゲージメントを継続して醸成するためにコンテンツマーケティングが着目されており、その文脈に沿ったモデルといえます。
このように、購買行動モデルの変化をご覧いただくと、「顧客の自発的行動」がどんどん増えていることがおわかりいただけると思います。施策を実施する側としては、クロスメディアを上手に活用し、顧客接点をできる限り設けることで、顧客がゴールに向かうための行動を促す必要が増しているのです。
どんな企業でも、マーケティング・プロモーション戦略の最終目標は「商品・サービス・企業の認知向上」「売上の向上」の2つに収れんします。
事前にリサーチした結果に基づいて、マーケティング・プロモーション戦略を立案し、限られた予算のなかで最終目標を達成するためどれだけ効率よく展開するかが肝心です。クロスメディアは複数のチャネルを同時にまたは連続的に扱うため、チャネル単体で訴求するよりもコストや管理の手間がかかります。
また、チャネルには、それぞれ得意・不得意があります。例えばマスメディアでは設定したゴールに直接導くことはできず、ほかの手段を準備する必要があります。イベントは消費者・見込顧客がより身近に商品・サービスに触れることができる機会を創出しますが、日時や天候に左右されることがあります。店頭はゴールに進むまでに最も近い顧客接点ですが、多くの場合場所が限られているので、商品・サービスのより詳しい情報提供は困難です。商品・サービスの特性や訴求対象となるターゲットを精査して、適切なチャネルを選択しましょう。
チャネルとターゲットに合ったクリエイティブの制作も重要です。それらを上手に組み合わせて訴求することによって、消費者が事前に設定したゴールまで楽しみながらも迷わず到達するための道筋をつくる、それがクロスメディアで最も大事なポイントです。
並行して、「消費者・見込顧客データの取得」が円滑にできるよう設計しなければなりません。メールマガジンの配信、新しい商品・サービスの紹介など、消費者・見込顧客とのエンゲージメントを醸成・強化すると同時に、適切な情報を提供する基礎となるマーケティングデータをより精緻化する必要があるからです。
多くのクロスメディアにおいてWEBが活用されるのは、消費者が商品・サービス・企業のどこに興味関心を抱いているのか、ゴールに到達したか否かのデータの取得・分析が短時間・低コストで実現できるからにほかなりません。
近年スマートデバイス(スマートフォン、タブレットなど)の普及が著しく、スマホアプリを利用したマーケティング・プロモーション施策が増加しています。スマホアプリやそれがインストールされたスマートデバイスの機能を利用して、ユーザーにさまざまな情報を提供できます。
スマホアプリもクロスメディアのチャネルとして有効に機能します。ただし、メリットだけでなくデメリットもありますので、注意が必要です。
スマホアプリにユーザー登録させるには、「抽選で豪華プレゼントが当たる!」「初回起動時にクーポンがもらえる」など相応のモチベーションを形成するためのトリガーが必要になります。
現在のマーケティング・プロモーション戦略は、インターネットの普及とSNS・スマートデバイスによる情報の共有・拡散を重視し、消費者とのエンゲージメントを構築・維持する方向にシフトしています。しかし、消費者はなかなか心を開いてくれません。
クロスメディアは複数のチャネルを利用して顧客接点を複数設定します。消費者・見込顧客が興味関心を抱く機会を多くすれば、エンゲージメントを開始するきっかけを増やすことができるでしょう。
クロスメディアを行いたいと考えたとき、どこに相談すればよいかお悩みではありませんか?そのようなときにはぜひTOPPANクロレにご相談ください。
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