商品やサービスを「誰に」または「どの市場に」向けて販売するのかによって、マーケティング戦略は大きく変わります。この「誰に」を決める作業が、ターゲティングです。この記事では、ターゲティングの概要や重要性、STP分析と6Rを使って適切な市場を探す方法、そしてターゲティングを考える際のポイントを解説します。
ターゲティングとは、「誰に、何を、どのぐらいの対価で、どのように売るのか」というマーケティング戦略の中の、「誰に」の部分を検討し、マーケティングの対象となる顧客や市場を限定することです。
ターゲティングでは、性別や年齢、居住地といった属性や、興味・関心などによって対象を分類し、自社の特性や商品の特徴、市場規模などをもとに狙いを絞り込みます。
ターゲティングは、マーケティング戦略の出発点と言われます。というのは、ターゲティングによって、商品自体やパッケージ、価格設定、プロモーション方法や販売チャネルも変わるためです。
例として、スキンケアブランドのマーケットを考えてみましょう。女子高校生向けと30代の働く女性向けでは、持っている肌の悩みや使える金額、情報収集の方法、好まれるデザインの傾向などが異なります。ひとつの商品を両者に売るよりも、それぞれのニーズに合った商品を設計し、伝わりやすい媒体に広告を打つ方が、効率良く成果を出しやすいと考えられます。
このようにビジネスの対象を絞ることによって、マーケティングの効率が上がり、成果を創出しやすくなります。ターゲティングが重視されるのはそのためです。具体的には以下のような効果が期待できます。
ターゲティングは、マーケティングを考える際の基本であるSTP分析のプロセスのひとつとして位置づけられています。では、STP分析とはどのようなものなのでしょうか?
STP分析とは、米国の著名な経済学者、フィリップ・コトラーが提唱したマーケティング理論です。簡単に言うと、市場を細分化(Segmentation)し、商品の対象となる顧客を絞り込み(Targeting)、そのなかで競合と差別化できるポイントを明らかにすること(Positioning)により、ビジネスで優位に立てるという考え方です。それぞれの頭文字を取ってSTP分析と呼ばれます。
まず自社の商品ジャンルに関する市場を調査します。現在の市場規模や競合の状況、顧客のニーズを調査し、データを客観的に分析。そのうえで次のような要因をもとに市場を細かく分類します。
・人口統計的な要因:性別や年代、学生か社会人かなど
・地理的な要因:居住エリアや気候の特性など
・心理的な要因:行動の特性、趣味、関心事など
細分化した市場のなかで、自社の商品を購入する可能性の高い有望な市場を探します。商品の特性や市場の規模、競合の状況などを考え合わせて狙いを定めますが、その際に、次章で解説する「6R」というフレームワークがよく使われます。
ポジショニングとは、狙いを定めた市場において、自社の商品が他社よりも最も魅力的に見えるポイントを明確にすることです。そのポイントをアピールすることによって、消費者に自社商品ならではのイメージを植え付け、競合よりも高い価値を感じさせて、優位に立つことができるのです。
ターゲットごとに商品のニーズは異なります。ターゲティングをすることで、そのニーズを的確に捉えることができれば、商品において強調すべきポイントがはっきりします。
例えば、同じ高級外車であっても、ボルボは「世界一安全な車」、ポルシェは「世界最強のスポーツカー」というように、アピールするポイントが全く異なります。顧客層によって求める価値が違うことが分かります。
6Rはターゲティングの際に考慮すべき条件を整理したフレームワークです。狙う市場を6つのRでチェックすることによって、ターゲットとなり得る市場かどうかが判断できます。
その市場は、自社の事業が成り立つのに十分な市場規模を持っているか?
その市場は、今は小さくても成長しているか? 今後の成長が見込めるか?
その市場における競合の状況(シェアや商品の強さなど)はどうなっているか?
その市場の顧客層にとって、自社の商品は優先度(関心)が高いか? 購入した顧客から周囲に広がっていく可能性があるか?
その市場に対して、自社の商品やマーケティング活動が到達できるか? 例:年収3,000万円以上の富裕層を狙おうとしても、リストがなければアプローチできない。
その市場の顧客は、自社の商品を容易に入手できるか? 例:インターネットの利用率が低い世代は、ECでしか扱わない商品の入手が難しい。
広告や販促といったマーケティング施策の効果測定ができるか?
ここで、ターゲティングを行う際に重視したいポイントを整理しておきます。
競合と比較した場合に、自社の強みが発揮でき、優位に立てる市場を選ぶことが大切です。
また、高級ブランドがカジュアルな低価格帯の市場に参入する場合のように、その市場が有望であっても、自社の特性や既存のイメージとかけ離れている場合は、もとのブランドイメージを損ねる可能性がないか、注意が必要です。
企業側の都合で作られ、顧客のニーズに応えていないひとりよがりの商品は、顧客には受け入れられません。事前にターゲット層を綿密に調査・分析し、顧客の心理やニーズをつかんだうえで、顧客視点に立って商品開発やマーケティングを行いましょう。
市場に競合が少ない場合、法的な規制や制度による参入障壁が高い可能性もあります。新たな市場に参入する際は、自分たちではコントロールできない外部環境も考慮して計画を立てましょう。
子ども向けのおもちゃのように、利用する人と購入をする人が異なることはよくあります。BtoBでは、利用者と購入の意思決定者がそれぞれ複数になるケースも珍しくありません。
こうした場合は、相手によってアピールするポイントが変わります。例えば、幼児向けの菓子では、パッケージに人気キャラクターを付けて子どもの目を引きます。一方で購入者である親向けには、優れた栄養価や価格の手ごろさをアピールする、といったことが考えられます。誰に向けた訴求なのか、ターゲットを分けた戦略が必要です。
最後に、当初のターゲットから別のターゲットに切り替えて成功した事例を2つ紹介します。
1970年代に、サーフィンを楽しむ若者向けの清涼ローションとして発売されたシーブリーズ。当時はマリンスポーツが盛んで、シーブリーズは多くの若者に受け入れられました。ところが近年、マリンスポーツ人口の減少とともにシーブリーズの売上も低下。そこで、販売元である資生堂では新しいターゲットを女子高校生に絞り、「体育や部活後の汗のにおいを抑える清涼ローション」にポジションを変えました。このターゲット変更によってシーブリーズは人気を回復。売上は低迷期の数倍に伸びました。
スタジオアリスは、開業当初(1974年)はDPE(フィルムの現像、プリントなど)を主に行っていましたが、1992年に「子どもの写真」に特化した写真館をオープン。ターゲットをDPEの顧客から、かわいい子どもの写真を残したい親や、子どもと一緒に家族写真を撮りたい親や親族に変えたのです。デジカメが普及してDPEのニーズが激減するなか、このターゲット変更は成功。現在では全国に500店舗以上を展開しています。
ターゲティングは、ビジネスを効率良く進めるために必要なものです。対象があいまいだったり、ずれたりしていると、商品開発や宣伝、販促の方向がぶれてしまい、顧客を惹きつけることができません。その結果、コストも手間も無駄が多くなります。「誰に」「どの市場に」売るのかは、マーケティング戦略の出発点と言えます。STP分析や6Rを活用して的確にターゲティングを行い、新しい事業を成功に導きましょう。
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