企業のセキュリティ対策というと、ITを中心とした情報セキュリティを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし、高性能なカラーコピーが誰でも簡単にできる今、各種金券や証明書、重要書類といった、印刷物の安全性にも注意を向ける必要があります。セキュリティ印刷は、さまざまな技術を駆使して偽造防止を図る印刷方法です。この記事では、印刷物の偽造リスクを抑えられるセキュリティ印刷について詳しく解説します。
セキュリティ印刷とは、印刷物の偽造を阻止する目的で行われる印刷方法です。セキュリティ印刷では、偽造を未然に防ぎ、偽造された印刷物を発見しやすくするために、印刷物に特殊な加工やデザインなどを施します。
偽造防止印刷、セキュリティプリント、セキュアプリント、セキュア印刷といった名称で呼ばれることがあるほか、印刷会社が独自のサービス名称を付けているケースもあります。
セキュリティ印刷は現在、さまざまな分野の印刷物で利用されるようになっています。
その背景としては、カラー複写機やプリンター、スキャナの性能が向上し、特別な技術がなくても比較的容易に精密な偽造ができるようになったことが挙げられます。
実際に、海外から本格的な設備で大量に作られた偽造品が国内に持ち込まれる事件も頻繁に起きており、ここ数年でも、カード会社のギフト券や大手百貨店が発行する商品券、大手飲食店チェーンの食事優待券、ゴルフ施設の利用優待券などの偽造事件が発生しています。
また、近年増えている地域を限定した商品券やクーポン券などの比較的マイナーな金券類には、偽造かどうかが判断しにくいリスクがあります。使える範囲が限られていても金銭と同様の価値を持つため、偽造品が出回れば損失や混乱を招きます。
各種証明書や高級ブランドのパッケージの偽造事件も増加傾向が見られます。こうした場合、損失はもとより、被害を受けた企業自体のイメージダウンも免れません。ブランドや信用といった企業価値を守るうえでも、印刷物のセキュリティ対策の重要性が注目されているのです。
セキュリティ印刷が使われている印刷物の例としては、以下のようなものがあります。
近年、セキュリティ印刷の技術はさまざまな形で進化しています。セキュリティ印刷を4つの要素に分けて、主な例を紹介します。
セキュリティ印刷の4つの要素とは次のようなものです。
質感や色み、柄が明らかに異なる特別な用紙を使用することで、偽造されにくくなる効果があります。
透かして見たときに、マークや文字が白く透けて見えるように特別に漉(す)いて作る用紙。透かし用紙は日本の紙幣でも使われています。
通常のカラーコピー機やプリンターでは再現できないインクを使うことで、偽造を見分けやすくします。
乾くとその部分だけ盛り上がる透明なインクを使用すると、ロゴや地紋が立体的に浮かび上がって見えます。透明部分はカラーコピーでは再現できないため、偽物かどうかが判別しやすくなります。
角度を変えると色が変わったり、文字や柄が浮き出て見えたりする特殊インクです。カラーコピーではこの色の変化を再現できません。
紫外線を当てると蛍光色に光るインクです。ブラックライトを当てれば瞬時に判別できるため、コンサートやスポーツのチケットにもよく使われています。
紙の表面に簡単には再現できない特別な加工を施し、偽造を防止します。
一見何も印刷されていないように見えますが、コピーをすると隠れていた文字(COPY、複製禁止など)や柄が刷られるため、複製であることがひと目で分かります。
見る角度によって光の色が変わる箔を転写する方法です。カラーコピーやスキャナでは、変化する光の色を再現できません。あらかじめホログラム加工が施された用紙を使う場合もあります。
紙に文字や図柄を型押しして立体的にする手法で、紙の凹凸はコピーでは再現できません。型押し部分が凹になる「から押し」と凸になる「浮き出し」の2種類があります。
パソコンやカラーコピーでは再現できない、細密な文字や網点(あみてん)を使って印刷したり、特別に複雑な柄をデザインしたりする技術です。
人の目では判読できないような極小サイズの文字を模様や罫線の中に並べて印刷します。非常に細密なため、カラーコピーではつぶれてしまい、偽造できません。
通常の印刷では網点で表現する色のグラデーションを、細密な実線の太さを変えることによって表現する方法です。微妙に異なる実線を再現するのは難しい一方、ルーペを使えば簡単に判別できます。
色を網点で表現するのではなく、数色のインクをローラー上で混ぜて印刷する手法です。不規則かつ連続して色が変化するため、偽造は困難です。
指定位置にチェック用のフィルムを重ねて見ると、模様の中から隠れていた文字や図柄が浮き出ます。フィルムがなければ確認できないため、対策を施していることが気づかれにくい技術です。
印刷の網点をドット(点)ではなく、ごく小さな文字や図形などで構成する手法です。とても細密な図形なのでコピーでは再現できません。
円や弧、波線などを組み合わせた複雑な幾何学模様を印刷します。いろいろなパターンを作ることで、複雑さが増し、偽造されにくくなります。紙幣でも使用されている手法です。
これらの特別な技術に加えて、通し番号の付与のように、シンプルですが有効な手法もあります。
こうしたセキュリティ印刷の手法を複数組み合わせて使用することで、偽造防止効果が高まります。数多く組み合わせるほど、偽造は困難になります。例えば、日本の1万円札は表(おもて)面だけで11もの偽造防止技術を使っており、印刷技術の結晶とも言われています。
セキュリティ印刷を検討する際には、偽造のリスクや偽造された際の影響の大きさから、どの技術をどの程度組み合わせて対策すべきかを考えることが大切です。技術の難易度が高ければ、コストも高額になります。自社のニーズに合わせ、最大限の費用対効果が得られる手法を選びましょう。
ニュースで目にする機会は少なくても、金券や証明書などの偽造事件は頻繁に発生しています。こうした事件が起きると、偽造による損失に加えて、企業としての信用が損なわれる可能性があります。どんなものも簡単にカラーコピーができる今だからこそ、企業側はできる限りの対策を講じるべきです。セキュリティ印刷を活用して、トラブルを未然に防ぎ、企業価値を守っていきましょう。
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