CSV経営とは? CSRとの違いやメリット、実践方法、事例を紹介

CSV経営とは? CSRとの違いやメリット、実践方法、事例を紹介

マーケティング・販促

CSV経営とは、社会貢献につながるビジネスを通して企業としての利益を上げることを目指す考え方で、近年注目を集めています。企業は本来、営利目的で事業を行う組織です。しかし今の時代、利益ばかりを重視する企業は、社会の支持を得ることができません。ここではCSVを取り入れた経営について、注目されている背景、企業にとってのメリット、実践の方法や事例などを幅広く解説します。

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CSV経営とは何か

初めにCSVおよびCSV経営とは何かを説明します。

CSVとは

CSVは“Creating Shared Value”の略語で、「共通価値(共有価値)の創造」と訳されます。CSVを提唱したハーバード大学のマイケル・ポーター教授は、「社会のニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、かつ経済的価値も創造されるというアプローチ」と定義しています。

少しかみ砕いて言えば、CSVとは、社会貢献につながるビジネスを通して企業としての利益を上げることを目指す、社会貢献とビジネスを融合させる考え方ということになります。

CSV経営とは

CSV経営は、企業が「本業」として、社会にとって意義のある事業を進めることで、利益や企業の成長といった経済的な価値を高める経営方法です。

持続性のある社会に対する意識が世界的に高まるなか、CSV経営は企業が成功するための新しい手法であり、競合との差別化を図り、市場における競争力を高める戦略であるとも考えられます。

CSVとCSRの違い

CSVと混同されがちな用語に「CSR」があります。

CSRは“Corporate Social Responsibility”の略語で、「企業の社会的責任」と訳されます。「企業は顧客や取引先だけでなく、従業員や投資家、近隣住民などすべてのステークホルダーと社会に対して責任を負うべきである」という考え方に基づく、企業の社会貢献活動です。企業は、CSRを通して自社のイメージを向上させ、企業価値を高めることが可能です。

CSRとCSVとでは、利益を獲得することに対しての考え方が違います。

  CSR CSV
経済的利益 目指さない 目指す
社会貢献 目指す 目指す

CSRの目的は、あくまでも社会的責任を果たすことであり、必ずしも経済的な利益を生むことではありません。よって本業のビジネスと分けて行われる活動も多く見られます。例えば地域の清掃活動、被災地支援の募金活動などもCSRのひとつです。

一方、CSVは自社の強みである経営資源や専門性、得意分野、実績や経験をもとに、「本業のビジネス」として社会課題の解決を目指します。社会課題の解決と利益獲得の両立を目指す点が、CSRと異なるのです。

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CSV経営が注目される背景

では今、なぜCSV経営が注目されているのでしょうか?

社会課題の深刻化

現在、環境問題や経済格差といった、社会的な課題が世界規模で深刻化しています。国内でも少子化や食料自給率の低さ、フードロス問題など、解決すべき社会課題が山積みとなっています。

社会課題のなかには企業の経済活動に起因するものも多く、企業の利益追求の姿勢が環境破壊や搾取を生み出してきたケースも少なくありません。

そうした批判に対して、これまでの企業はペナルティを課せられたり、寄付をしたりといった贖罪(しょくざい)的な対応をしてきました。しかし、それでは根本的な解決につながりません。社会を持続可能なものにするには、企業の経済活動自体を「社会にプラスの価値を生む」ものに変える必要があると考えられるようになったのです。

消費者や投資家の意識の高まり

一方、消費者や投資家も社会的な課題に大きな関心を向けるようになり、消費行動や取引を通して、自分たちも社会に対して責任を果たしたいと感じる人が増加しました。「環境負荷の少ない商品を選ぶ」「フェアトレード商品を購入する」「ESG投資を行う」といった行動が一般化し、社会的な価値の有無が商品や投資先を選ぶ基準のひとつになったのです。

本業における社会貢献が他社との差別化ポイントとなり、利益拡大や資金調達に有利に働くという認識が広まったことも、CSV経営が注目されている理由のひとつです。

CSV経営のメリット

CSV経営には社会問題の解決と利益向上以外にも、次のようなメリットがあります。

ブランディング

本業を通して社会に貢献する企業姿勢を示すことで、他社と差別化ができ、ブランドイメージの向上が期待できます。ESG投資やエシカル消費にも対応でき、取引先や消費者、投資家などの信頼や支持を集めることができます。

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新しいノウハウやパートナーの獲得

社会課題を解決するための取り組みには、従来とは異なる分野に目を向け、新たに事業の幅を広げるチャレンジが必要です。そうした挑戦は、新たな技術やスキル、協力企業やパートナーの獲得につながります。

CSV経営の課題

現在のCSV経営には次のような課題もあります。

明確なガイドラインがない

現時点では、CSV経営をどう進めればよいかという公的な指針やガイドラインはありません。そのため、企業はCSV経営への取り組み方をゼロから考えなくてはなりません。プランニングに人材やコストを潤沢に注げる大手企業はともかく、リソースの確保が難しい中小規模の企業では手を出しにくい状況と言えるでしょう。

ただし、ここ数年、SDGs(持続可能な開発目標)を経営方針に組み込む企業が増えています。政府が旗振り役をしているSDGsでは、具体的な事例やノウハウが積み上がり、公開されています。そうしたなかから、自社に近い業種や規模の企業の取り組みを参考にすることができます。

1社だけでは問題解決が難しい

社会課題は規模が大きく、どこから手を付けていいのか分からない、一企業単体での解決は難しいという声もあります。

既存事業や得意分野との関わりから具体的な成果が期待できる、ひとつのテーマに絞り込むことで、自社ならではの道筋が見えてくるでしょう。

また、すべてを自社だけで完結させようとするのではなく、同じ課題に取り組む関連企業や研究機関、公的機関などのパートナーを見つけることも大切です。協業によって、課題解決の幅を広げ、相乗的に取り組みの効果を高めることが可能になります。

長期的な取り組みとなる

CSV経営は社会課題の解決と利益獲得の両立を目指すものです。社会問題の解決には時間がかかるため、短期的には成果が得られない場合があります。長期的な取り組みが必要となる点を理解して初期投資を行いましょう。

CSVを実践する3つのアプローチ

CSVを提唱したポーター博士は、CSVを行うためのアプローチとして次の3点を挙げています。

製品と市場を見直す

社会的な課題を解決できる製品・サービスと新しい市場をつくりだし、その市場を拡大していくことが、社会的な価値と経済的な価値の両立につながります。新たな製品・サービスを開発するだけでなく、既存の製品の品質や使いやすさを見直すことも重要です。

自社の強みを最大限に生かし、これまでとは異なる発想や柔軟なアイデアによってブルー・オーシャンとなる新しい市場を開拓できる可能性もあります

バリューチェーンを見直す

バリューチェーン(価値連鎖)とは、原料調達から製造工程、流通、販売に至るまでの一連のプロセスを指します。このプロセスを社会課題の解決という視点で見直すことで、社会価値と企業価値の両立が可能になります。

例として、発展途上国にある原料の供給元を支援、育成することによって、環境負荷の少ない原料の安定的な供給を目指すとともに、現地の経済的な自立を支えるといった取り組みが挙げられます。

産業クラスターを生み出し、地域に貢献する

産業クラスターとは、特定のビジネスに関わる企業や専門組織、公的機関などが一定の地域に集積している状態を指します。

シリコンバレーのように、複数の企業や組織が互いに競争や協力をしながら共通の課題に取り組むことができれば、技術革新が起こり、人材育成やインフラの整備が進みます。生産性が向上するだけでなく、地域社会の活性化に貢献することができます。

CSV経営の事例

最後に、CSV経営を進めている企業の事例を紹介します。

酒類メーカーとしてアルコール関連問題に取り組む[キリンホールディングス]

キリンホールディングスは、解決すべき社会的な課題を特定してアクションプランを定め、キリングループ全体で取り組むことを宣言しています。その取り組みのひとつが「酒類メーカーとしての責任を果たす」こと。アルコールの過剰摂取や飲酒運転といったアルコール関連の問題への対応を行っています。

具体的な例として、同社が世界で初めて開発したアルコール0.00%のビールテイスト飲料をはじめとするノンアルコール、低アルコール飲料の開発、販売が挙げられます。また、飲んでいるアルコールの量を顧客が把握できるように、パッケージに純アルコールの量を表示する取り組みもこの活動の一環です。

食の力で、暮らしにも地球にもプラスの影響を与えたい[ネスレ]

世界最大規模の食品飲料会社であるネスレは、自社の存在意義として「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」と宣言。人々やペットの生活、地球に対し、プラスの影響を与えるための取り組みを数多く行っています。

ネスレ日本でも、ごみを減らすためのラベルのないボトルコーヒーの販売や、納品期限を過ぎた製品を販売する「食品ロス削減ボックス」の導入など、多彩な取り組みを行っています。また、沖縄県の名護市やうるま市と連携し、大規模な国産コーヒー豆の栽培を目指す「沖縄コーヒープロジェクト」を展開。コーヒーを沖縄の新たな特産品にし、地域を活性化することを目指しています。

人とクルマと自然が共生する社会を目指す[トヨタ自動車]

トヨタ自動車は事業活動のすべての領域を通じて、環境負荷を低減し、社会・地球の持続可能な発展に貢献することを目指しています。2015年には「トヨタ環境チャレンジ2050」を掲げ、気候変動、水不足、資源枯渇、生物多様性の損失といった地球環境問題に対してクルマの持つマイナス要因を限りなくゼロに近づけるとともに、社会にプラスの影響をもたらすための取り組みと目標を発表しました。

具体的には、2050年に、グローバルで新車の平均走行時CO2排出量を90%削減(2010年比)することを目指す「新車CO2ゼロチャレンジ」といった取り組みを展開しています。

CSV経営によって企業の未来は拓かれる

CSV経営とは、事業利益の獲得と社会貢献とを両立させる経営手法です。自社のビジネスを、社会を良くするものだととらえ、具体的な取り組みを進めることで、未来志向の経営が可能になります。まずは、自社の強みを社会に生かせるテーマを探すことから、CSV経営の第一歩を踏み出しましょう。

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