IRとは?企業がIRを行なう目的や具体的な活動内容
マーケティング・販促
IRとは、自社の経営状態や財務状況など投資判断のよりどころとなる情報を投資家や株主に提供する、企業にとって重要な活動です。この記事では、IRの基礎知識に加えて、企業がIRを行う目的や具体的な活動内容、一般的な広報との違いを詳しく解説します。
- 目次
- 1. IRとは何か
- 1-1. IRの概要
- 1-2. ディスクロージャーとIR
- 2. IRの目的
- 2-1. 自社への投資を促す
- 2-2. 株主・投資家と良好な関係を築く
- 2-3. 企業の社会的価値を高める
- 3. IRの主な活動内容
- 3-1. 対面でのIR
- 3-2. 非対面のIR
- 4. IRと広報との違い
- 4-1. IR
- 4-2. 広報
- 5. 積極的なIRは企業の社会的価値を向上させ、投資を促す
IRとは何か
初めにIRとは何か、基本的な内容を説明します。
IRの概要
IRとは、事業運営のための資金を提供してくれる投資家や株主に向けて、投資を判断する際に必要な自社の情報を、自主的に公平に提供する活動のことです。
IRという言葉はInvestor Relations(インベスター・リレーションズ)の略で、日本語では「投資家向け広報」と訳されます。
IRで提供する情報は多岐にわたり、現在の経営状態や財務状況、企業活動の実績、さらに将来的な見通しなども含みます。加えて、知的財産の状況や社会貢献活動、環境活動など、企業運営に関わる非財務情報を公開するケースも増えています。
IRを積極的に行っている企業は、健全に経営されている、信頼できる企業だという印象を与えます。しかし、株価を上げることを目的に内容が薄い情報開示を頻発するといったIRによって、投資家の評価を下げてしまう企業もあります。IRは、短期的な株価の上昇を目指すものではなく、長期的に自社を理解し、応援してくれる投資家や株主を増やすための活動だと考えることが大切です。
IRの活動は、かつては文書での報告や説明会の開催が主流でしたが、近年はほとんどの企業が自社のWebサイトでIR情報を公開しており、誰でも気軽に企業の最新情報を確認できるようになりました。
ディスクロージャーとIR
IRとともによく使われる言葉にディスクロージャー(Disclosure)があります。これは「情報開示」を意味する英語で、企業が投資家や株主、取引先などに企業の事業の状況などの情報を公開すること全般を指す、IRよりも広い概念です。
ディスクロージャーには、法律や規則によって義務化されている制度上のディスクロージャーと自主的なディスクロージャーがあります。このうち、企業が自主的に行うディスクロージャーとIRは同じものです。投資家に対するPR的な内容を含み、公正な情報提供であれば特に規制はありません。
一方、投資家の保護を目的にし、開示を義務付けられている情報として、証券取引法や関連規則に定められているのが、制度上のディスクロージャーです。具体的には毎年の有価証券報告書や決算短信、株価に影響しそうな出来事をタイムリーに伝える適時開示情報(プレスリリース)などがあります。
IRの目的
それでは、IRは企業にとってどのような意味があるのでしょうか。その目的を整理します。
自社への投資を促す
IRの最大の目的は、企業情報を提供することによって資本市場で正当な評価を得て、自社への投資を促すことです。IRによって企業経営の透明性をアピールし、投資に値する企業であることを伝えます。
株主・投資家と良好な関係を築く
企業から見た“良い投資家・株主”とは、目先の株価に振り回されずに中長期的に自社を支えてくれる存在です。そうした投資家・株主の多くは、単に株価の上昇を予測して投資するのではなく、どのような企業なのかを綿密に調べます。業績だけでなく、経営方針や企業活動の透明性、信頼性も判断材料とします。
自社のことを深く理解してもらうための積極的なIRは、“良い株主・投資家”から選ばれることにつながります。そして丁寧な情報提供やコミュニケーションを続けることによって、株主・投資家の企業に対する理解や信頼感が深まり、結果的に中長期的なサポートを得ることが可能になるのです。
企業の社会的価値を高める
企業には、投資家以外にも顧客や取引先、地域社会、行政などさまざまなステークホルダーがいます。これらのステークホルダーに経営方針や社会貢献活動などを伝え、自社の社会的な価値を広く浸透させることも、IRの目的のひとつと言えるでしょう。
近年、CSR活動(社会的責任を果たすための活動)やSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを重視する企業が増えています。というのも、こうした企業の社会的価値を高める取り組みはESG投資の促進につながるからです。
ESG投資とは
ESGとは、企業が行う「環境(E: Environment)」「社会(S: Social)」「ガバナンス(G: Governance)」の取り組みのことです。そして、ESGを積極的に行う企業を将来にわたって成長持続性が見込めると評価し、投資の対象とするのがESG投資です。
世界持続的投資連合の調査(※)によると、2020年の世界のESG総投資額は約3,900兆円で、2018年から+15%の伸び。日本でも+32%と急成長しており、その影響を軽視することはできません。株主や投資家にとどまらない広い対象に向けた情報提供も、IR戦略の重要な一端を担っているのです。
※出典:世界のESG投資額35兆ドル 2年で15%増: 日本経済新聞 (nikkei.com)
IRの主な活動内容
次に、IRの活動として具体的に実施されている主な内容を紹介します。
対面でのIR
企業が株主や投資家と対面で行うIRには、主に以下のような方法があります。
- 企業説明会
- ミーティング
- 決算説明会
- 工場・施設見学
こうした対面でのIRでは、株主と直接やりとりができるため、密度の濃いコミュニケーションが可能です。質疑応答を通して株主・投資家の意見に耳を傾け、彼らの疑問をその場で解消できる良い機会にもなります。最近ではコロナ禍の影響もあり、説明会やミーティングをリモートで行う企業が増えています。
非対面のIR
非対面で行うIRには、文書によるもの、広告、インターネットを活用するものがあります。
報告書
- 財務情報:事業の詳細、経営状況を株主や投資家に報告するために、有価証券報告書、決算短信、事業報告書、各種データをまとめたファクトブックなどを発行します。投資判断の基本的な材料となり、詳細かつ正確であることが求められます。
- 非財務情報:知的財産報告書、CSRレポート、サスティナビリティレポートなど、財務以外の情報をまとめた資料です。ESGを評価基準とする投資家に向けて、必要性が高まっています。
- 統合報告書、アニュアルレポート(年次報告書):財務情報と非財務情報の両方を企業価値の構成要素として、一冊にまとめて掲載する報告書です。すべての情報が網羅できて利便性が高いことから、発行する企業が増えています。
初めてIRを担当する方向けに、統合レポートやサスティナビリティレポートの基礎知識を分かりやすく解説した無料eBookをご用意しています。ぜひご活用ください。
ニュースリリース
新商品や新規事業、新しい技術開発、新店舗オープンなどの発表、独自の調査結果の報告といった事業活動のトピックスを、タイミングよくマスコミや業界メディアに配信します。仮に企業にとってマイナスな情報であっても、迅速に公表することで透明性や対応力を示すことができます。
IR広告
不特定多数を対象に、経営方針や事業の成果を広く伝えることを目的として、メディアに広告を出稿します。企業ブランディングの手法としても活用されています。
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インターネットによる情報提供
Webサイト上でIR情報公開を行う方法です。リアルタイムに情報の更新ができ、グローバルに情報を届けられる点がメリットです。
SNSの活用を始めている企業もあります。例えば、ゲームソフトメーカーの株式会社カプコンでは、自社サイトのIRページの更新告知やメディアへの掲載実績、株価の終値、IR担当者の活動といった情報を、TwitterとFacebookできめ細かく配信しています。
IRと広報との違い
最後に広報とIRの違いを解説します。どちらも社外に向けて情報を提供する活動ですが、対象や目的が異なります。それぞれの担当者に求められるスキルも紹介します。
IR
対象
主に株主や投資家。前述のように広告やWebサイトなどを利用して広く一般向けに情報公開をする場合もありますが、IRの基本的な対象は株主や投資家です。
目的
投資に影響を与える情報を公平に開示することで、株主や投資家から継続的な投資やサポートを獲得することを目的としています。
IR担当者に求められるスキル
経営や投資、市場、商品知識、事業内容などに関する幅広い知識が必要です。株主や投資家のニーズを把握し、適切に情報を提供していくことが求められます。
広報
対象
消費者、マスメディア、Webメディアなど
目的
マスメディアやWebメディアに情報を提供し、ブランディングやマーケティングの促進を図ります。企業やブランド、商品、サービスなどの認知度アップや普及が主要な目的になります。
広報担当者に求められるスキル
PR手法に精通する必要があります。商品知識、事業内容などに関する知識のほか、マスコミ対応のスキルも必要です。最近では、自社のSNSを使って消費者と直接コミュニケーションをする広報もあり、SNS運用のスキルが必要な場合もあるでしょう。
いずれにしても、消費者や社会のニーズを敏感に読み取り、提供する情報を見極めていく力が求められます。
積極的なIRは企業の社会的価値を向上させ、投資を促す
IRは、企業が自由意志で行う投資家向けの情報提供です。その大きな目的は、経営状況や事業の業績などの財務情報を示して、株主や投資家の継続的な投資を促すことです。しかし近年はこれに加えて、企業姿勢や社会活動を広く社会全体にアピールすることの重要性が増しています。積極的なIRによって、社会的な責任をしっかりと果たす健全な企業として広く認知されることによって、企業の社会的な価値が上がります。そして投資に値する企業という市場の評価が高まれば、結果として資金が調達しやすくなるのです。
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